笑顔の裏側に
そして次のバイトの時から、越川先輩は必要以上に悠と接触し出した。

ボディータッチは頻繁になり、何かと悠に話しかけていることが多くなった。

その時に目が合えば、わざとらしく嫌な笑みを浮かべられる。

お客さんが私しかいない時や閉店後は聞こえよがしに大きな声で話す。

聞きたくないし、見たくもないのに、気になってしまって予習に全然集中できない。

心がざわついて、頭がそれでいっぱいになる。

このままじゃダメだと本気で感じ始め、どうすべきかを考えた結果、私がカフェに来ないという選択がベストだと思った。

私が知らないところで悠が越川先輩とと思うと心が掻き乱されるけれど、悠なら大丈夫だと信じたい。

そのためにはやはりあの光景から離れたほうがいいと思った。

悠が許してくれるかどうかはわからないけど、一応打診して見ることにした。

夕食時、ドキドキしながら話を切り出した。

「あのさ、悠。」

改まった様子の私に悠の瞳が真っ直ぐ私を捉えた。

全てを見透かされそうな瞳から目を逸らして箸を置いた。

すると悠も同じように箸を置く。

「家庭教師の後、カフェで悠のバイトを待つの、やめない？」

「どうしたんだよ、急に‥。」

悠の瞳に戸惑いが増した。

「いや、あの、悠を待つのが嫌って言うわけじゃなくてね‥。その‥カフェで約1時間半も居座るのは申し訳ないなと思って‥。」

「別に1時間半くらいなら普通だろ？しかもそんなに混んでるわけじゃないんだし。」

折角考えた理由を真っ向から否定されてしまう。

確かに悠の言うことは最もで、何も言い返せない。

「それに悠よりも先に帰れば、その分家事もやっておけるし、夕食だって悠が帰ってきた時にすぐに食べられるように準備しておけるじゃない？」

我ながら取ってつけたような理由だなと思う。

悠が納得してくれるような理由は私にはこれ以上思いつかなかった。
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