恋人境界線
「…いや。志麻のノートは生まれたときからずっと俺だけのもんだから」
「……っな、なにそれ」
あたしのノートがいつから、春臣のもんだって?
あたしのノートは、他でもなくあたしのものだ。
ただ、あわよくば、新しい春臣の癖を見つけられる為のものであってほしい。
ノートを写すまでの短い時間が、二人きりで居られる理由になればいい。
「て、ていうかさ。なんでそんなに遡るの?生まれたときって」
深刻にならないように、つとめて明るくあたしは言った。
「え、だめ?」
四人掛けボックス席で隣同士に座る。
右肩だけが、やけに熱い。
「だめに決まってるじゃん」
「お、海。見えてきたな」
わざと会話をそらしたのか、それとも天然なのかはわからない。
あたしも海を見た。太陽の光に照らされた、真っ青な水溜まり。
水平線がはっきりと、あたしたちに空との境を教えた。
「ねえ春臣、部屋割り決めるってみんなが言ってるんだけど…」
薫がこちらに手招きをしている。
もうノートを閉じていた春臣が、ため息混じりで立ち上がった。