phantom

" 憐れみ "

驚かなかった、と言えば嘘になる。逆に"これ"を見て驚くな、と言う方が無茶な話という物だ。
それ程までに、ナノさんの顔面は酷く荒れていた。……例えるならば……どうだろう。

(大火傷をした後に、酸で灼かれ鋭利な刃物で引っ掻かれたような……)

……とてもこんな言葉じゃ言い表せない。自分で"バケモノ"と言ってしまうのも頷けるし、それに。

――"俺を愛してくれる人は……"
――"サキはアイツラとは……"

(なるほどね)

大方、わかった。

彼は愛されることを望んでいる。しかし周りは彼を受け入れてくれなかった。何故か?愚問だ、理由は彼の顔にあるのだ。
普通の人間ならば、ナノさんを無条件に愛すなどそんな聖人めいたことは到底できないであろう。

――"普通"ならばの話だが。


もうお分かりの通りだろう。一度ナノさんの素顔を見た私は迷うことなく発狂した。悲鳴を上げた。彼をバケモノと罵った。

――結果、死んだ。

そして次の生で彼の素顔を見、私は彼の顔に両手を添える。一度目は衝撃が強過ぎて感情的に動いてしまったが、二度目なら大丈夫。不思議と思考も落ち着き深く考えることができ、同時にこの人を深く憐れむこともできた。

この行動は計算してのものだが、気持ちは本物だ。私は今この瞬間、ナノさんを深く"憐れんで"いる。











可哀想に。どうして彼がこんな目に。一体どこの誰がやったんだ。あまりにも報われない。ひどい顔だ。痛みはないのだろうか。





たくさんたくさん、憐れみの言葉が出てくる。湯水のように溢れ出てくる。ああこれが、これが彼の求めていたものなのだろうか。これが"愛する"ことなのだろうか。

推理ではなく確信であった。何故なら、彼の崩れ掛けた左眼が証明していたからだ。


ぱきぱき


軽い音を立てて、引き攣った肌がぽろぽろと崩れ落ちた。
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