phantom

あの世との邂逅

目が醒める。……一瞬コレはデジャヴュかとも考えたが、私を取り囲む白い壁達にその可能性は潰えた。
ココはどこだろうか。私は先ほど凄惨な死に様を不特定多数の人々に見せつけてしまったように思えるのだが。
それにしてもココにドアはあるのか。窓はない。全面白いペンキのような物で塗り潰されているのだから。

ココで永久に餓死し続けろということなのだろうか。確かに私は死んだのだから。するとここは天国……いや地獄だろう。地獄だから、何かの罰を受けなければいけないのだろう。受刑場がたまたまココで、精神を延々削られ続ける悪夢のような生活を続けなければいけないのか。

「……」

それなら……と一瞬でもあの男の顔が浮かんでしまった自分をもう一度殺したい。なんだ、何もしなくていいのなら楽以外の何物でもない……。

後手を組んで、ころんと寝転がった。そういえば服装はと自身の身体を一度見てみる。理科の教師が身につけていそうな白衣だ。汚れひとつなく、よくクリーニングされていることが窺える。

ポケットに手を忍ばせ何があるか探るが、特に飴もガムもなかった。少しだけ残念な気持ちになりながら、起こした上体をゆっくり床に付けようとすると、どこからか扉が開く音。驚き立ち上がってのっそり入ってきた目の前のシルクハットを見つめる……。

……。


……シルクハット……?


「……君がサキ、か」
「……」

あの時見たシルクハットと同一人物だろうか。黒く長いマントも見覚えがあるし、何よりも顔を隠すように長く伸ばされた黒髪と、無機質な仮面はまるでこの世の人とは到底思えなくて。

あの時そこまで詳しく見たわけではなかったから、断言はできないけれど……けれど、この人はあの男だと、そう確信できる何かがあった。

呆然と立ち尽くしていると、シルクハットが素早く此方にやってくる。

そして大きな手を差し出し……

大きな、手……。






――"咲ちゃぁ、ぁんッ好きだよぉ"










「……さ、触らないで!!」


思ったよりも大きな声を出してしまった。ああダメだ。私の知らない内に、私は男性恐怖症になってしまったらしい……。このシルクハットは何も悪くないのに、悪い事をしてしまった。

「あ、そ、ごめ……私……、――ッ!?」
「キミも失敗か……?」

謝ろうと声を上げた瞬間、息が出来なくなる。気道を締め上げられて、圧迫されたところからどんどん苦しみが広がった。

「ひゅ、ぐ……ぁに……!?」

何、すんのよ。これも言葉にならなくて、生理的な涙が頬を伝った。



「キミも俺のことをバケモノと言うのだな」





意味、分かんない。






嗚呼、また死ぬ。
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