phantom
目が醒めた。……先ほど、私また死ななかったか。それとも気絶しただけなのか。

でも、確かに事切れた感覚はあった。あのトラックに轢かれて死んで、その感覚を、シルクハットに首を絞められた時にも感じたのだ。

「私は……確かに死んだ」

なのに何故か此処にいる。どういうことなのだろう。絞殺された前のように、寝転がったり、ポケットに手を入れたりする。今回も飴などは入っていなくて、少ししょんぼりした気持ちとなった。

がらり。

そして現れたシルクハット。……どうやら扉は壁と同化するように白く塗られているらしい……。

「……君がサキ、か」


……同じ発言。ということはなんだ、私だけ前世の記憶を持ちループしているということか?

(……何よそれ)

取り敢えず、今度はシルクハットに殺されないよう、うまく立ち回ろうじゃないか。まずこの人の大きな手に私は発作を起こした。それが起きれば私は自制することができない。つまり、この人の前で発作を起こす事は死に直結する。

気をつけねば。

「……そう、ですよ。楠木 咲です」

コミュニケーションを取ることから始めよう。

「……施設を案内する」
「……」

(そっちも名前教えてよ!)

これじゃ壁打ちじゃない。

悶々としていると、シルクハットはマントを翻し、白い部屋から退室しようとする。前は手を差し出してきたのに……行動が違うのは、そうか。

(私が異なるアクションを起こしたから)

NPCの動きはプレイヤーに対応するだろう。私次第でこの世界は変わっていく。




諦めれば、またループしてしまう。

ゴールはどこだ。既にそう考えてしまう自分は本当に耐え性のない人間なんだろう。



……自分の身は、自分で守れと。
ループするこの世界で、できるだけ死なないように。痛い思いをしないように、気を張って生きていかなければならない。










これだけ苦しい地獄が、他にあるだろうか。
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