phantom

理不尽な殺人

白い部屋を出た先は、また真っ白な廊下だった。プラスチックのワゴンや自動販売機などがあちこちに点在している。ワゴンの上にはノコギリやハサミ、カナヅチなど用途をあまり聞きたくないような工具がちらちら見えた。

(自動販売機には……コーラとか普通に売ってる……)

一体ここはなんなのだろうか。そして更に問い詰めたいことがいくつか。

囚人服を着た人間があちこちを歩き回っていること。そして彼らがシルクハットを見た瞬間、血相を変えて足早に何処かへ去っていくこと。

(この人も何者なのだろう)

人を殺すのに全く躊躇がなかった事から、かなり人格的にもヤバイということは分かるのだが……。

「サキ」

シルクハットが急に立ち止まる。幸いある程度距離を取っていたので彼の背中に激突することは無かった。
内心安堵しながら、無言でのっぺらぼうのお面を見つめる。

「ここで待っていろ」
「は、はい」

そう言って彼は扉の向こうへ姿を消した。何の部屋だろうと上に上に視線をのぼらせていけば、「所長室」というボードが目に入った。

(所長……?ここは何の施設なの?)

相変わらず囚人服の人間達は廊下を徘徊している。心なしかシルクハットが消えてから騒がしくなったように感じた。あの人は彼らに恐れられているのだろうか。


「なあ」
「……?」

五分ほど経った頃だろうか。
十五、六歳ぐらいの少年の声がして顔を上げると、とっつきやすそうな笑顔をした男性が立っていた。

(また、男……)

無意識にぶるぶる震える足を叱咤して、できるだけにこやかに応対する。仮にも囚人服を着ているんだ、何をするかわからない。気をつけろよ私。

「僕はリュウヤって言います、よろしくね」
「……サキです、よろしくリュウヤ君」

……あれ?案外いい奴かも。
あのシルクハットが来るまで、私は時間を忘れてリュウヤ君とお話した。好きなテレビやラジオ番組、アーティスト、書籍など。彼を通じて、この施設には娯楽も充実していることがわかった。

まだ話したいな。もっと話したいな。この人は無理に触れようとしてこない。笑顔も見てて安心する。何より優しい。

(死ぬ前に、こんな人に……会いたかったな)

そんな思考を振り払い、今度は私から話題を切り出そうとした時。













リュウヤ君の頭が飛んだ。










文字通り、飛んだ。

切り株みたいになってしまった首からは心音に呼応するよう、規則的に血が噴き出ている。血液が、私の白衣を朱く染めてしまった。余りにも突然のことで空いた口が塞がらない。飛び散った血液が口内に侵入し、気味の悪い鉄の味がむわっと広がった。


「……な、なん、で……?、ぅお゛ぇッ!!、うぅ……リュウヤ君……げほっ」

「囚人と仲が良いのか?……コレも失敗だな」



黒い……シルクハット……。









お前の目的は、何なんだ……!









「殺してしまおう」
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