phantom
「なあ」
「……え?」

気が付けばリュウヤ君が私に声を掛けていた。白い部屋からの出発ではないのか?……死んだ所を回避出来たから、もうあの場面は繰り返さなくても良いということだろうか……?

(ステージクリア、セーブポイント)

何だかゲームのような話だが、この感覚で何故かしっくり来るらしい。頭の中もすっきりした。

……今度は死んだ時の記憶がないが、私もリュウヤ君と同じように首を一瞬で切断されてしまったのか。それとも目を潰されたあと首を切られたのか。

記憶が残るのもランダムということなのか。
考えれば考えるほど分からない。私は……。
私は……。

「……おい!」
「痛っ」

思考をぐるぐる巡らせていてリュウヤ君のことをすっかり忘れてしまっていた。掴まれた腕の痛みに現実に引き戻されると、あの笑顔とは程遠い顔をした……。

「リュウヤ君……?」
「"ナノ"から名前聞いたのか?ちっ、散々無視しやがって、女の癖によ!」

"ナノ"?

"ナノ"とは誰を指しているのか。もしかして、あのシルクハット……?

というか、それよりも……!

「痛いから、ッ離して!」
「黙れ!抵抗すんじゃねえ!」


……へ?
あのリュウヤ君と、まるで別人のような今の彼に動揺する。どういうことだ。
あの優しいリュウヤ君は、演技だったってこと……?



――"僕はリュウヤって言います、よろしくね"





「いいからこっち来いやクソアマぁ゛!」





「……だ、だめ」

やだ。やだやだ。

手加減なんて無いのだろう腕が軋む音がする。嫌だと言えば更に力は強くなるばかりで、激昂しているこの男に最早何を言っても無駄と悟った。

ああやっぱり囚人なんだ。シルクハット――ナノがああ言ったのも頷けるかもしれない。

"囚人と仲がいいのか、失敗だな"


こんな、根底から腐った人間に騙されていた。
少しでも期待した自分が馬鹿だった。男なんてみんなこうだ。女が反抗すれば気に食わないのか知らないが、すぐ力で抑えつけようとする。

自分の欲だけ満たせればそれで良いのだ、男なんて。



今度はどうやって殺されるんだろう。義父にされたみたいに散々中に吐き出されて殺されるのかな。
それとも長きに渡って虐められ続けて衰弱死?

(……も、やだな……)




さくっ

「……あ゛?あぁ゛……?ああ゛アァァァ゛!!?」

ぷしゅう

けたたましい叫びに目を見開けば、左肩をぷらぷらさせている暴漢の姿。同時に何かずしりと重くなったので、視線をずらす。

目に入ったのは主を失った彼の左腕が、私の右腕に必死にしがみついている様子。

「――ッむぐ!」

思わず悲鳴を上げそうになると、後ろから口を塞がれた。

「……俺は大きい声が苦手なんだ」

"ナノ"がそう呟きながら、乱雑に張り付いた腕をもぎ取ると、宙に投げて細かく切り刻む。
身長の二倍ほどもある、大きな鎌で。

「い゛だひぃいい!!いだいよオオぉぉ!」

この悲痛な叫びをもう聞きたくなくて、耳を思い切り塞ぐ。脈拍が段々勢いを増していく。視界がぐにゃぐにゃと歪む。ダメだ。また暴走して"ナノ"に殺される……そしたらまたリュウヤ君に声をかけられるところから始まって……。


「俺の腕ェええぇぇえ!返せええ!!」
「……死ぬか?被験体No.12833509」

ごめんなさいリュウヤ君。

私の命と引き換えに、貴方には腕を失ってもらいました。

そうでもしなきゃ無限にループしてしまうの。

不変なんて人間には耐えられないの。


私には……耐えられない……。



また死ぬのかな。
意識が闇に持っていかれる……。



暖かい温度に包まれながら、私は瞳を閉じた。
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