椎名くんの進級
俺 告白ろうかと思ってるんだよね

「俺 告白ろうかと思ってるんだよね。」
椎名が言った。みんなの顔に疑問符が浮いた。
「誰に?」
「大野先輩に。決まってるだろ。」

 何を今更と、そこにいる誰もが思っただろう。この色白で小太りの男が、裏方組の紅一点である大野先輩に叶わぬ恋心を抱いている事は、俺達だけではなく、演劇部全体での周知の事実だ。

 椎名は入部当初から大野先輩に犬のように懐き、どう考えても不得意きわまりない大道具担当を志願し、先輩の尻を、文字通りの尻を追いかけ回し続けていた。先輩の方も出来の悪い後輩ほど可愛いのか、手取り足取り、一から十まで丁寧につきあってやっていて、椎名はますます先輩に溺れていった。

 にもかかわらず、秋も深まった頃、突然、演出の神井先輩が大野先輩を横から攫っていってしまった。大野先輩はかわいらしい外見と裏腹に、陰で武則天と呼ばれる程の女帝ぶりだったから、彼女に男ができるなんて、俺達の誰も想像していなかった。
 椎名はこれまた分かりやすく動揺して、憤慨し、落ち込んだ。

 そうはいっても、実際に大野先輩を狙ってる男は神井先輩の他にもいた。神井先輩がいなくとも椎名に望みがあったとは、俺には思えない。

 だが彼はその後、腹いせなのかセクハラまがいの発言で大野先輩をからかい、彼女を泣かせて仲間内で大ひんしゅくを買った。以来、大野先輩はあまり活動に顔を出さない。

 まあ、椎名の前でイチャイチャする先輩達のほうにも非はあるので、俺に言わせればどっちもどっちなのだが。

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