坂道では自転車を降りて
 梅雨は雨が続く。あれから何度も電車に乗った。バスを降りて駅のホームに立つと無意識に彼女を捜してしまう。もし彼女がいたら、隣に立てたら、痴漢よけくらいはできるはずだ。だが、彼女をみかけることはなかった。そうだよな。あんな目にあったのだから、同じ電車に乗る筈ないよな。もっと早い時刻に、友達と一緒に、違う車両に乗っているだろうな。

 俺の隣に並ぶ他校の女子。小さい子だな。まだ着慣れていない感じの制服が、余計に彼女を小さく見せる。一年生なんだろう。同じ制服を着た子達が少し向こうのドアに並んでいる。友達と一緒に乗らないのかな。同じ高校だからって友達とは限らないか。

 電車が来た。人の流れに乗って電車に乗り込む。
「あっ」小さな悲鳴。さっきの子がドアの前でひっかかっている。あの日彼女が立っていた場所だ。俺は人に流されて車両の中まで入る。何かひっかかる。俺の隣にいたんだから、普通にしてたら、こっちまで流されて来た筈だろ。その子の隣に立つ背の高い男の顔をみてハッとした。あいつだ。先日、大野多恵に背後から抱きついていた男だ。
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