坂道では自転車を降りて
 話さねばと思いながらも、何も出来ないまま、数日が過ぎた。彼女は次第に姿を現すようになった。舞台装置に関する打ち合わせでも、表向きは笑ったり、普通に会話が成り立った。

 しかし、俺と話をしているのに全く視線が合わない。俺の顔を見ないようにしている。考えてみれば一年前に戻っただけなのだが、なんだかすごく腹立たしかった。俺に文句があるならはっきり言えば良いものを、こんな風に無視される謂われはない。図書室へ行くのも、彼女を待っているようで嫌になり、行かなくなった。


 舞台装置や衣装もおおむね完成し、あとはひたすら稽古のはずだった舞台が、突然上手く行かなくなった。何度やってみても違和感が残る。どうも納得が行かない。何かひっかかるのだが、何がひっかかるのか自分でも分からない。みんな最初はそれなりに演じていたが、稽古を積むごとに、纏まりかけていた舞台が、バラバラになっていく。なのに俺は何を言っていいのか、全く分からないのだ。演出全体が進まなくなり、俺は完全に行き詰まってしまった。

「お前、しばらく休めよ。」
部長の原が提案した。
「その間は俺がやっとくから。」
「ごめん。」
「いや、いいんだ。今まで、何もかもお前にやらせてすまなかった。少し休め。」

 原に後を託して、部室に戻る。荷物をまとめていると裏方組が怪訝な顔でこちらを伺っている。
「神井、帰るのか?」
川村に呼び止められた。
「悪い。今日は、もうできない。」
大野多恵も心配そうにこちらをみていた。俺は無視して部室を出た。


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