坂道では自転車を降りて
 まずは文化祭。1週間後にコンクール。準備も佳境に入った。動きはほぼ固まり、小道具も本番仕様のものを使い始める。
 急に大野多恵を見かけなくなった。舞台の近いこの時期、基礎練はやったりやらなかったりだ。彼女は活動自体には来ているらしいのだが、俺が部室に顔を出す頃にはまだ来ていなくて、体育館から引き上げる前に帰ってしまう。用事はメモか、一年に言伝だ。そういえば、図書室にも何日も来ていないような気がする。

 最初は単に忙しくなったのかと思っていた。彼女は美術部にも所属しているし、よく調べ物もしていた。舞台装置はほぼ完成しているから、文化祭へ向けて何か美術部の方の作品を仕上げているのかもしれない。
 しかし、やっと見かけた彼女は、俺の方を見ない。目が合わないのではなく、目を合わせないようにしているのだと気づいた。俺は何か地雷を踏んだらしい。

「神井、大野さんとなんかあった?」
川村が訊いて来た。
「俺は何もしてない。。。と思う。」
「なんか最近元気がないっていうか、お前を避けてない?」
「それは、俺も気づいてる。でも俺、本当に心当たりがないんだ。」
「本当か?」
「本当だ。」
「お前も鈍いからなー。」

「彼女の地雷なんて、俺に分かるかよ。」
「そうだよなー。」
「そんなに元気ないのか?」
「うーん。そのうち自分でなんとかするだろうけど。」
「俺のせいなのかな?」
「なんじゃない?お前を避けてるように見えるぜ。」

川村に聞いてもらおうかとも思ったが、それは違う気がした。
「彼女とちゃんと話せよ。」
「分かった。」

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