坂道では自転車を降りて
彼女は助けを求めて川村をみたが、川村は彼女に言った。
「大野さん、逃げないで神井にちゃんと説明してやれよ。このままじゃ、神井もかわいそうだし、俺、もう見てらんないよ。」
俺は川村へ顔を向けて投げつけるように言った。
「お前でもいいぞ、川村。誰か俺が分かるように説明してくれ。」
掴んだ腕から、彼女が震え上がるのを感じた。
「俺は。。。。関係ない。」
川村は悔しそうに言うと、荷物を抱え、部室を出て行った。

 部室はまた二人になった。沈黙が流れる。彼女の腕を掴んだまま、どのくらい時間が経っただろう。この細い腕を洗ってやった日のことが思い出された。俺が深いため息をついたとき、
「触るなって、言った。」
彼女がポツリといった。
「?」
「神井くんが、言ったんだよ。俺に触るなって。だったら、私にも触らないで。」
彼女は俺の手を振りほどいて後ずさった。声が震えている。怒ってるのか?
「俺が?」

「ごめん。ちがうの。神井くんのせいじゃないの。」
今度は急にしおらしい声で謝った。
「触るなって、言ったの?俺が?」
それは確かにありえる話だ。だって君は近すぎたから。彼女はゆっくり頷くと、少しずつ説明を始めた。
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