坂道では自転車を降りて

 次の日、今度はやっぱり見た事のない男子が俺の下駄箱の前にいた。青い上履き。一年だ。俺が見ていると気付いて頭を下げた。石は入っていなかったけど、あいつは俺の下駄箱の前で何をしていたんだろう。なんだか少し気味が悪くなってきた。
 さらに次の日の朝、「今度はクリスマス公演ですね。また脚本を書くんですか?」と書かれていた。さて、こいつをどうしよう。無視しても良いんだが、何もしなかったらそのうち勝手に終わるのか。それともずっと続くのか。どっちにしても気持ちが悪い。
 俺は余白に『誰?』と書いて靴の中に残した。答えるだろうか。

 放課後には、手紙も石も消えていた。一日おいて次の次の日の放課後、また手紙が入っていた。
「あなたのファンです。いつも見ています。」
あなたのファンって、紫のバラの人かよ。ファンと言われて悪い気はしないものの、やっぱり少し不気味だった。手紙の裏に返事を書く。
「応援は嬉しいけど、無記名の手紙は不気味です。せめて名前を入れてください。」
 正直に書きすぎたかなと思ったけど、うまい言い方が見つからなかった。というか、上手い言い方を探すのが面倒だった。手紙の裏に書き込んで靴の中に残す。石が笑いながら俺をみているような気がして後ろを向けた。

 次の日にも、また手紙が入っていた。
「ごめんなさい。もうやめます。図書室の人は彼女ですか?」

 男か女かも分からない、名前も明かさないヤツに、そんな個人的な事を答える必要はない。そうだと言えば諦めるかとも思うけど、彼女が危害を加えられる可能性もゼロではない。考えたあげくに、「俺の彼女は校外」と書いて、靴の中に入れた。それ以来ピタリと手紙は来なくなった。不気味な石もなくなった。
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