坂道では自転車を降りて
「おはよう。何、ニヤけてんの?」
「いや、べつに。」
 慌てて靴を履き替え廊下に出ると、彼女が靴を履き替えているのが見えた。北村さんと一緒に登校して来たのか。あれ?だったら、この手紙はいつ入れたんだ?昨日の帰りか?そう思ってよく見ると、字も彼女の字とはぜんぜん違う。げげっ。別人なのか?

 昼休み、図書室で彼女に尋ねてみる。
「今朝と昨日、俺の靴に石を入れた?」
「石?」
彼女は怪訝な顔をした。
「いや、やっぱりいい。誰かのイタズラだと思うから。」
「靴に石が入ってたの?」
「うん。まあ。」
「嫌がらせ?」
「いや、単なるイタズラ。君かと思ったんだ。」
「私?」
「まあ、ほっとこう。大した事じゃないから。」

次の日、俺が登校すると、俺の下駄箱の前に女の子が立っていた。ショートカットの見慣れない子で、上履きの色が青いから一年生だ。彼女は俺に気付くと会釈をして去って行った。ここは2年の下駄箱なのに、何をしていたんだろう。考えながら上靴をみるとまた石が入っていた。『文化祭、素敵でした。』と書いてあった。さっきの子だろうか。何にしても、これで確定だ。大野さんではない。演劇部員でもない。そして、俺があの本を書いた事を知ってる。あの子は誰なんだ?

 今まで女子とはあまり縁のない生活をしてきた。あの後、東さんからメールがあったので、大野さんとそういう事になったと電話で伝えた。東さんも薄々感じていたようで、淡々と話した。最後に俺が「じゃあ。」といったら、残念そうな大きなため息が聞こえた後、「ありがとうございました。」と答えた。なんだかとても申し訳なく思った。そして今度はあの子だ。俺にモテ期ってやつが来てるのだろうか。
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