坂道では自転車を降りて
ラブラブでお願いします
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 クリスマス公演は、2本建て公演に決まった。脚本は2本とも俺の書いたものだが、1本は一年生の演出。もう1本は2年の中川が演出する。もちろん脚本の色も違うが、演出でまた差が出るだろう。
1本目は自分を見つけられないまま恋愛を求める男女の物語。2本目はクリスマスの夜、サンタを待つ少年とそれを見守る母の一夜の物語。
 1本目は場面転換も登場人物も多いので、あまり舞台を作り込むことはできない。2本目は自宅っぽさが出ればなんでも良い。彼女がどうするかと思っていたら、やはり1本目はベンチがひとつ。2本目は貧乏な家の中っぽい棚やら時計に、ツギのあたったボロいソファだった。俺のイメージではコタツだったのだが、体育館の舞台で役者が床に座り込んでしまっては、客から見えなくなってしまうからだ。そして、2本共通のセットに大きなクリスマスツリーが配置されることになった。これで、2本の芝居を繋ぐ糸ができて、話に統一感と奥行きが出た。彼女の仕事には毎度、感心させられる。

 1本は台詞を軽くして、演劇部の役者が総出演での完全コメディにしてみた。悪ノリ・アドリブ、大歓迎、素での演技でやれるように書いたつもりだ。役者や衣装部は楽しそうだ。2本目はコメディよりも本格派の演技をやりたい役者達が役をとり、セットも作り込む。

 俺と大野多恵の事は部内ではあまり公にしたくなかった。彼女も同意見らしい。恥ずかしいのもあるし、からかわれたりすると立場上やりにくい。今のところ、部内ではあまり知られていないのか、とくに話題にあがることはなかった。鈴木先輩がどこから情報を得たのかが気になる所だが、川村か、もしかしたら彼女本人かもしれない。
< 244 / 874 >

この作品をシェア

pagetop