坂道では自転車を降りて
俺じゃ、だめ?
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 役者の稽古に参加しはじめて二日目だったと思う。演出の中川くんから提案された。
「ちょっと台本を変更します。ここは仲良しな感じで。」
「仲良し?」
「大人のイチャイチャじゃなくて、中学生くらいの感じで。お手てつないで、見つめ合って、『ねーっ♡』って、ラブラブで歩いてみてください。」
「ああ、、そういうやつね。」
 それならできるかも。でも、それだと、脚本の筋と違うような気がする。

 気付くと主演の男性の台詞も変更になっていた。神井くんを見ると、目を反らされた。きっと彼の仕業だ。正直助かるけど、本当に良かったのかな。夕べは自分が演出だったら妥協したくないみたいなことを言っていたのに。
 相手役の山田くんは、腕の見せ所が消えてしまいすごくがっかりしたみたいだった。彼だって端役なりに苦労して役を作り上げて来たに違いないのに。本当に申し訳なかった。

「ごめんね。私のせいで。せっかく作った役が変更になっちゃって。」
謝ると、びっくりしたようだ。
「もういいですよ。先輩は裏でも忙しいのに、無理させてるのは俺らだし。出来ないものは仕方ないでしょう。俺はもう1本の方もあるし、そっちがんばります。もちろんこれも。」
この子、優しいんだな。そう思うと、自然と演技ができた。

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