坂道では自転車を降りて
”すん”彼女が鼻をすする音がした。俺は彼女の頭に手を置いて、その柔らかい髪をなでた。しばらくそうしていると彼女も落ち着いて来たようだ。あまり遅くなってもいけないので、声をかけた。

「今日はもう帰ろう。送るよ。」
彼女は首を横に振ったけど、俺は構わず立ち上がって、彼女の手を引いた。

 中学は違うが、俺たちの家は近い。自転車で20分程度の道のり。男子の多くは自転車で通学するが、女子は電車とバスを乗り継ぐ。途中に大きな森林公園があり、それを横切るため、帰りの夜道が物騒だからだ。
 俺は泣き顔の彼女を自転車の荷台に乗せ、彼女の家まで送る事にした。俺が自転車にまたがると、彼女は申し訳なさそうに荷台に座った。横座りの女の子なんて、乗せた事がない。こんなんで落ちないんだろうか。

「大丈夫かな。ちゃんと掴まって。」
彼女は頷いて俺の腰に手を回した。
「よし、行くよ。」
俺は走り出した。腹が暖かい。重さもあまり気にならなかった。
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