坂道では自転車を降りて
 高校の演劇部、裏方のそれも大道具に女子がいることは知っていた。4月にはいなかったような気がするのだが、いつ入部したのか。文化祭の頃からか、部全体の会議で鋭い発言が目立つようになった彼女を見て、裏方にも女子がいたのかと驚いた。

 とはいえ、印象はかなり微妙だった。彼女はクリスマス公演のために俺が書いた初めての脚本を、真剣に読んでくれた数少ない部員の一人でもあった。一年生なのに怖いもの知らずの発言を繰り返し、俺の本を議題に乗せて真剣に討議してくれた。なのに、結局最後に彼女がとどめを刺したのだ。

「ただ、クリスマスっぽくないんですよね。春とか文化祭の方が良い気はしますが。」

 言われて気付いた。次々と新しい友人と出会い戸惑い成長する主人公の心情はどう考えても春から夏の情景だった。クリスマスの頃には、関係は成熟している。確かに冬っぽくないし、クリスマスの公演にはそぐわない脚本だった。
 もともとの本の出来がよくなかったのもあるかもしれないが、彼女のひと言が決定打となり、俺の書いた本は見送られてしまった。夏休みのかなりを割いて書いた本だっし、その時には良いのが書けたと思っていただけに、すごく悔しかった。今の議論はなんだったのかとも思った。
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