坂道では自転車を降りて
 はっきりモノを言う人は嫌いじゃない。曖昧に誤摩化すやつのほうが気持ち悪い。だが、やはり、しばらくの間はなんとなく彼女を見る目つきがキツくなってしまったのかもしれない。彼女は俺と目が合うと目をそらしてしまうようになった。

 以来、少し気になっていた。見た目はとても大人しくて、気が弱そうなのに、会議での発言は大胆だ。論理的で正論で全く容赦がない。もう少し先輩の顔を立てないといじめられるぞと、忠告してやりたくなるが、本人は気にしていないと言うよりは気付いていないのかもしれない。
 仕事もデキるらしく、舞台監督の先輩は仕事に関して彼女に全幅の信頼を置いている様子だ。彼女の指示で仕事をしているように見えることもある。

 だが、賢くてしっかりしているのかと思えば、そうでもないらしく、普段は何かと子供扱いされている。不思議な子だった。地味な顔立ちは役者としては絶望的だが、よく見るとそれなりに整っていなくもない。
 正直に言ってしまえば、容姿に関しては好みのタイプだ。ただ、中身がかなり想定と違う。

 クリスマス公演前には夜遅くまで作業をしているのを見かけるようになった。今度の公演で先輩が引退したら、彼女が舞台監督をするのだろうか。

 ようやく気づいたのか、彼女が部室に現れた。俺がいたので少し驚いた様子で目を見開いたが、すぐに何事も無かったかのように入室した。かっちりと着た黒い制服は埃だらけ。ふんわりした肩までかかる髪を、軍手をした手で耳にかきあげながら入って来る。髪におがくずがついて、まるで灰をかぶったシンデレラだ。

 いろいろミスマッチなその可愛らしい仕草を横目で見ながら、自分のパソコンに目を戻す。

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