坂道では自転車を降りて
神井、何かあったの?
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 公演は明日に迫っていた。今日はリハーサルだ。昼休みから大道具、小道具を体育館の倉庫に運び込み、放課後、本番通り2本通しでやってみる。大野多恵は、テキパキと指示を出し、大道具作業に没頭していた。

 自分でも驚く程、今日の俺はダメダメだった。準備作業の時も、ぼーっとしていて仕事らしい仕事もせず、舞台に上がっても、台詞が出てこない。今、どのシーンを演じているかも、度々、分からなくなり、彼女が出るシーンでは、立っていられず、よろけて膝に手をついた。自分の脆さに自分で驚いた。最後には演出も俺を無視してリハーサルを進めた。

「神井、明日、大丈夫か?」原が心配して訊ねる。
「なんとかする。」
「今日はもう帰って寝てろよ。医者行かなくていいのか?」
体調が悪いと思われたらしい。そりゃそうだ。考えてみれば二日間ほとんど寝ていない。
「迷惑かけて、ごめん。」

 俺が初めて演出をした時、原がこんな風に不安定になった時期があった。俺は、原の不調には気付いたが、結局何もできなかった。自分自身もいっぱいいっぱいだったからだ。原は自力で復活した。
 今回、自分がそうなってみて、自分のメンタルをコントロールできないとは、なんと悔しいものなのか、思い知らされた。そして、昨日も今日も舞台に立っていた彼女の強さにもあらためて驚いた。
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