坂道では自転車を降りて
 舞台を追い出され、部室に戻る。家に帰って寝れば治る病ではないことは知っていたが、他に何もできない。部室はがらんとしていた。ふと倉庫に入って、彼女がうずくまっていた隅に座ってみる。
 昨日ここで彼女は何を思っていたのだろう。息を潜めて、俺がいなくなるのを待っていたのか。たとえ閉じこめられても、俺に会いたくなかったのか。だったら、どうして抱きついて来たんだろう。

 彼女に触れたい。抱きしめたい。

 でも、自分から手放したのだ。もう触れてはいけないのだと思うと、胸が苦しくて、息が詰まりそうだった。もしかしたら、夕べ、彼女も同じ事を思っていたのかもしれない。それとも、まだ、間に合うのだろうか。この気持ちを彼女にぶつけてもいいのだろうか?

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