坂道では自転車を降りて
 と、唐突に多恵が口を開いた。
「この本、私もやりたいけど、4月にやってしまうのはもったいなくない?準備に正味2ヶ月しかない。脚本ももちろんまだまだ直さないとできないし、多分、先生達とも、かなりやり合わなきゃいけない。なんか、未消化なうちに時間切れで公演になってしまいそう。でも9月に回すと、私は参加できないのよね。」
「これはあんたらが、9月にやれば良いじゃない。」
美波が言い足した。
 一年達が見捨てられたような顔になって黙る。流れが一気に2年生の方へ傾きそうな予感がした。

「こんなの、私達だけじゃ無理ですよ。」
誰かがポツリと言った。
「何言ってるんだ。無理じゃないぞ。全然。」
原は言うが、一年は見捨てられた気分が抜けない。

「1年生は2年生が抜けるのが不安なんだよね。新しい一年生も入って来るし。」
多恵が言うと、一年生達から、あぁ、と声があがった。新入生のことはおそらく彼等の頭にはあまり無かったのだろう。
彼女は原に声をかけた。

「原くんちょっといいかな?」
「何?」
彼女が原の耳にコソコソと話しかける。
「わかった。みんな、一旦、休憩にしよう。あ、神井。俺と大野さんの分のお茶も買って来て部室に置いといて。」
< 363 / 874 >

この作品をシェア

pagetop