坂道では自転車を降りて
 3学期の活動が始まって数日、いよいよ脚本を選ばなければというタイミングになって、やっと生駒さんが本を持って来た。読んで、俺は頭を抱えてしまった。彼女の本は学生の人間関係を描いたドラマだった。等身大といえばそうなのだが、孤立、教師の不理解、対立、いじめ、生きる意味への不安、リストカット、言いたい気持ちは痛い程分かるが、メッセージ性が強すぎるし、まとまりもない。第一、こんなの教師がOKする訳が無い。しかし、ここまで真剣に書いて来たものを無下にするのも、気が引ける。だが、今から何をやっても、とても間に合うとは思えない。なんで、もっと早く持ってこないんだよ。

 とりあえず、部員の全員で読んで意見を出し合う。2年は引退公演になる。完成度の高いものを作りたいからか、俺の本か、既成の脚本を使いたいと言うものが多かった。しかし、1年達は生駒さんの書いた脚本がなかなか捨てられない。生駒さんに無理なら、俺に直せと言う。そうだ。こいつらは俺が去年書いた本の舞台を見て入って来た連中だ。去年までの部員に比べて、自分の言いたい事を表現することに関心が高いのは当然と言えた。

< 362 / 874 >

この作品をシェア

pagetop