坂道では自転車を降りて

　まるまる書き直した方がいいかもしれないほどの修正だ。だが、迷いはなかった。

「なんかさ、あの脚本、流れというか筋は良いんだけど、キャラが、台詞を言わされてる感じがあって。」
確かにそうだ。言いたい事がありすぎて、人物がイマイチ作り込めないでいた。

「あれから、今まででこれだけ描いたのか？」
この短時間に、美術部恐るべしだ。
「えへ、内職しちゃった。」
スケッチブックを胸の前に抱え、肩をすくめて笑う仕草がまぶしくて目を逸らす。なんか、俺やばいぞ。
「ちゃんと授業聞けよ。」
言いながら貰った絵を眺める。

「えーっ。せっかく協力したのに。」
彼女が言ったけど、俺はもう絵の中に入ってしまっていた。すごい。イメージが胸の中で膨らんで、人物が勝手にしゃべり始めて、頭がいっぱいになる。

「まいいや。がんばってね。」
しばらくすると、彼女はくるりと後ろを向いて立ち去ろうとした。
　興奮して絵を見ていた俺は、彼女が行ってしまうと気付いて、慌てた。