坂道では自転車を降りて
「あ、待って。。」
引き止めようと彼女の腕を掴むと、彼女はよろけて俺の方に倒れて来た。なんとか両手で受け止め、今度はその小さな頭と細くて柔らかい身体に心臓が跳ね上がった。とっさの事に声がでない。なんで手なんか掴んじゃったんだ。声かけるだけで十分だったのに。。

「もう、乱暴だな。」
彼女は俺を押し返しながら文句を言った。
「ご、ごめん。礼を言ってなかったから。ありがとう。」
気付くとせっかく描いてもらった絵が床に散らばってしまっていた。まずい。
「いいよ。本当は私がすごく描きたくなって、我慢できなくなっただけなんだ。役に立てたみたいでよかった。」

 彼女は床に落ちた絵を拾いながら言った。身体に触れた事にも、まったく気にした風もなく、集めた絵を俺に手渡すと、がんばってねと言いながら、無邪気な笑顔で図書室を出て行った。

 それから、図書室を閉める時間に司書に声をかけられるまで、俺は夢中で本を書いた。
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