坂道では自転車を降りて
そろそろ昼休みが終わるぞ
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 クリスマス公演の少し前からだろうか、昼休みの部室には裏方組が集まるようになっていた。放課後の活動で大野先輩が舞台に駆り出されてしまう事が増えたため、昼休みの間にその日の作業を確認していたからだ。川村先輩が抜けてしまったこともあり、俺達一年が結束を固めて頑張る必要があった。俺と椎名は同じ中学でもともと親しかったが、高橋や藤沢とも気心の知れる間柄になった。それぞれの性格や能力もお互い把握し、上手く回るようになってきた。来年度はこの4人で裏を仕切るのだという手応えを俺は感じていた。

 今日も何となく部室に集まり、漫画を回し読みしていると、大野先輩がやってきた。公演が終わってからは、彼女が昼休みに来る事はあまりなかったのだが、今日は何か本を探しに来たらしい。
「脚立がないんだけど、知らない?」
誰も答えなかった。知ってれば答えただろうけど、誰も知らなかったから。本棚に所望の本を見つけられなかったのか、天井近くに釣った棚の上に片付けた古い雑誌を見るつもりらしい。答えがない事もとくに気にした風もなく、彼女は自ら机の上に乗った。ドアの上に作り付けられた棚の本に手を伸ばす。ソファに座って椎名の読んでいる漫画を覗き込んでいた俺は、慌てて椎名の肩を叩いたが、椎名も先に気付いていたらしい。目線よりもずいぶん高い位置にある彼女のスカートの裾がはためく。長めのスカートの中の暗がりに、何か見えそうで見えない。

 机は本棚から少し離れた位置にある。タイトルは見えるようだが、手が届かない。白い靴下の足がつま先立つ。
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