坂道では自転車を降りて
「わ。ちょっ。と。。どど。どうしたの?」
「会いたかったの。すごく、会いたかったの。」
言いながら俺のコートの背に顔を埋める。俺は振り返って彼女を正面から抱きしめた。
「わぁかったから。。」
「わかってないっ。忘れてたくせに。」
泣きながら怒ってる。
「。。。。。」
「忘れてたくせにっ。ばかぁっ。」
ポカポカ俺の胸を叩く。これじゃあ、抱きしめてやれないし、キスもできない。

「痛いって。暴れんな。こらっ。」
彼女の腕を掴んで腰を引き寄せた。
「ほら、抱きしめてやるから。キスもするんだろ?」
「そんな言い方、しないで。」
涙がぽろぽろ流れる。
「はいはい。もう。。どうしちゃったんだよ。これがあの大野さん?」
 いつも凛として、正論を曲げない。舞台監督で、1年の男子を4人も纏めて。自分が女の子だって事を知らないんじゃないかって思う程、勝ち気で、偉そうで。何でも自分で片付けてしまう。泣いてるところなんか全く想像できなかったのに。

「わかんないよ。自分でも、わかんないの。」
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。君の事ばかり考えてしまって、何も手に付かない。気が狂いそう。。」
この状況で、なななんてことを言うんだよ。
「多恵。。」
「。。。。ごめん。ひくよね。困るよね。。」
「いや、、」
何と答えたら良いのか、、俺と同じだ。彼女も自分の気持ちに翻弄されて、どうしたらいいか分からなくなってるんだ。混乱しきっている。なんとか落ち着かせないと。
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