坂道では自転車を降りて
このケダモノを野放しにしないでっ!
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 昼休み、珍しく彼女が部室に来ていた。とくに用があるわけではなく、俺の顔を見に来たのだと言い、俺と原の雑談を笑顔で聞いていた。裏方の一年もやってきて、多恵がいることに気付くと、図面を持って来て相談し始めた。

「部室と廊下の間のドア、倉庫にあるやつ使おうと思うんですが、」
 今回の舞台は部室だ。生徒の登場シーンは部室のドアからになる。何年か前に作った本当に動く引き戸が倉庫にあるのだが、古いのでキレイに動かないらしい。
「話だけじゃ、よく分からないな。現物見てみようか。」
彼女が髪を搔き上げながら席を立つのを見ていた俺は、思わず声を上げてしまった。

「多恵っ!」
「??。。。何?」
部室にいた全員がびっくりしたように俺をみた。
「あ、いや。ちょっと後で、話が。。」
「わかった。5時間目体育だから、放課後で良い?」
「体育!」
またデカい声を出してしまった。そうだ、俺も体育だ。
「いや、昼休みの間に。いや、いや、椎名達には悪いんだけど、そっちを後にしてもらえないかな。すぐ済むから。」

「なに?」
彼女は怪訝な顔でこちらをみる。
「ちょっと、ここじゃ。ごめん、倉庫に2人で入っても良い?」
多恵がムッとする。椎名達はあきれ顔だ。
「先輩、だいたーん。」
またからかわれる。
「ちがうんだ。本当、ごめん。」
言いながら多恵を倉庫に押し込む。
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