坂道では自転車を降りて
「大丈夫?」
「大丈夫。最後の公演だもん。それに君の本だから。もう少しだし、頑張るよ。」
「なんかあったら言えよ。無理するなよ。」
「うん。大丈夫。」
「ごめん。俺が無頓着すぎた。」
「ちがうの。私が、みんなを纏めきれてないだけなの。それが悔しくて。」
「悔し泣き?」
「そんなことで泣いちゃう自分も、もっと悔しくて。」
話しながらまた涙が出て来た。本当によく泣く。こんなによく泣く子だなんて、知らなかった。

「泣いたっていいじゃないか。多恵は女の子なんだし。」
「それは違う。絶対違う。悔しい。泣きたくないのに。本当に。悔しい。」
「すぐ泣く多恵も、俺は好きだよ。」
「でも、だから舐められるんだ。絶対いや。」
「それは、違うよ。あいつらだって舐めたりしてないって。」
「だって、からかわれてる。それだけでもダメのに、、私が泣いたりしたら、あの子達だって言いたい事が言えなくなる。また泣かないかって思って、言いたい事を言ってくれなくなる。それじゃあ、一緒にやってるって言わない。」
「指示はちゃんと通ってるだろ?戸が動かなきゃ、相談にくる。ちゃんと、信頼されてるし、あいつらだって一緒にやりたいと思ってるよ。かわかわれるのは、俺が、俺が君たちに割り込んで、仕事の邪魔をしたからだと思う。気をつけるよ。ごめん。」

 もう家に着いてしまう。俺は彼女の笑顔が見たくて、彼女の頭に手をのせて髪を撫でた。
「俺のせいなのに、俺ちっとも守ってやれなくて、ごめん。本当に。。」
「君のせいじゃないよ。大丈夫。もう泣かない。」
にっこりと微笑む。本当に、こいつは作り笑顔の天才だ。その凛々しい笑顔を見たら、なんだかかえって切なくなった。
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