坂道では自転車を降りて

 さっきまでの騒がしさが嘘のように、しんと静まり返った空間。木炭や鉛筆を走らせる音だけが響く。すごい緊張感。美術部ってこんなことしてたのか。

 しばらくすると、多恵が声をあげた。身体はぴくりとも動かない。
「ホットカーペットが熱すぎる。誰か温度下げて。」
白いシーツの下はホットカーペットなのか。だからあんな薄着で大丈夫なんだな。
「一旦、切りますね。」後輩らしき人物が電源を操作する。

 それにしても、これはいつまで続くのだろう。横たわり、髪を広げた彼女の死体は、美しいというか、艶かしいと思うのは、俺が邪な心で見ているせいなのか。本を掴んだ指先が、シーツに力なく落ちた腕が、うつろな目が、あまりに色っぽくって。ドキドキしてしまう。っていうか、男子部員も一応いるみたいなんだが、、いいのか、これ。いいのか。そこの手前のやつ、勝手に裸の身体の線が絵に入ってるぞ。あっちもそうだ。それが普通なのか。こんな見も知らない男が、彼女の首筋に浮かんだラインを、腰のくびれを、太ももの曲線を、胸の膨らみを凝視しては紙に写し取っている。見ているこっちが興奮して、勝手に口元に手が行く。

「あの、何か??」
突然 後ろから声がかかって、飛び上がってしまった。
「美術部に何か用ですか?」
「あ、いや。」
遅れて来た部員か。ここで逃げたら不審者だ。だが、用と言う程のものは何もない。まずいな。部屋の中をみると、相手もつられて部屋の中をみた。
「あ、始まってる。」
遅れて来た部員も、俺を無視して部屋に入り、急いでイーゼルと椅子を持ち出し、描き始めた。
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