坂道では自転車を降りて

「先輩、そこは突っ込まないでやってくださいよ。」
「でも。」
先輩は困ったような顔をする。八方美人というか、平和主義というか。小学生じゃないんだから、仲良しこよしにも限界がある。だからあなたの周りにはトラブルが絶えないんですよ。と言ってやりたくなる。

「ねぇ、皆は神井くんって、どんな人だと思う?」

 話しにくいのか、誰も何もいわない。そもそも、俺達裏方は、脚本・演出の神井先輩とは最近までほとんど接触がなかった。舞台監督の大野先輩と、音響では川村先輩が間に挟まっていたからだ。大野先輩を攫うように奪われて川村先輩が辞めてしまった事と、大野先輩を役者に駆り出して俺達が困った事くらいしか、出来事がなかった。
 もちろん、全体会議や合宿ではそれなりに一緒に活動していて、部の中心人物で活動源だということは分かっている。だが、神井先輩が俺達の意見を直接聞くようになったのは最近だ。原先輩の方がまだ俺達を気にかけてくれていたように思う。

 いやまてよ。神井先輩が俺達の意見を聞かなかったんじゃなくて、俺達が大した意見を持っていなかったから、何でも大野先輩を通していたから、神井先輩と話す機会がなかったんじゃないだろうか。神井先輩は一年の頃から先輩と怒鳴り合っていたとさっき聞いた。

「男の子からみて、どう?」

 先輩はなおも食い下がる。椎名はもちろん何も言う訳がないし、藤沢は俺の様子を伺っている。高橋がまた変な事を言っても困る。やっぱり俺かなぁ。

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