坂道では自転車を降りて
「ね、キスしよっか。」
俺の頬に手をあて、彼女からキスして来た。キスした筈なのに、感触がない。
「んふっ♡ 神井くん。ありがとう。」

両手で思いっきり抱きしめる。くにゃくにゃと柔らかくて掴みどころが無い。鼻先で揺れる髪に、目眩がする。

「多恵?何してるんだ?」
鈴木先輩の声がした。
「先輩。」
彼女はするりと先輩の方へ行ってしまった。
「神井なんか、からかうなよ。」
先輩が彼女を抱き寄せて言う。
「だって、神井くんが嬉しそうだったから。」
クスクスわらいながら、二人は歩いて行ってしまった。
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