坂道では自転車を降りて

「多恵は、先生とかにはならないの?」
「先生?だめだめ。子供苦手だもん。」
そうかな。幼稚園では子供達と楽しそうにしていたように見えたけど。
「高校の先生とかは?」
「全然考えた事なかった。高校生ならできるかな。いや、やっぱり無理だな。共感力低いから。生徒にきっぱりダメだしして、再起不能にさせちゃいそう。」
「あー。そうかもね。」
「でしょ?」
でしょって、あっさり肯定されて、少しはがっかりしないのか?

「神井くんの方が先生に向いてそうだよ。演出って先生に近くない?」
「考えた事もなかった。言われてみればそうだな。」
「舞台じゃなくて、教卓に立って演じながら、実は生徒を演出してるの。怖い先生だと思うけど、良い先生にはなれるかもよ。」
「どうかな。俺、結局自分が一番だからな。学校は生徒が主役だろ。」
「確かに。」
「俺も、何を仕事にするかは大学行きながらゆっくり決めるよ。」

 君と俺は、このさきずっと一緒にいられるのかな。卒業してからもずっと続いてる先輩の話なんて聞いた事がない。大抵、いつの間にか別れてる。でも、もしもずっと一緒にいられたら、それぞれ大学で勉強して、週末を一緒に過ごして。ここだったら就職だってそれほど遠くない所でできるだろう。結婚して2人で子供を育てたりしたら、それだってすごく素敵じゃないか。でも、そう言えば、ずっと以前、彼女は気になる事を言った。多分、結婚しないとかなんとか。今でもそう思っているんだろうか。いや待てよ。

「多恵、大学は自宅から通うの?」
「決めてない。理系は都内の私立は学費も偏差値も高い割に生徒の人数も多くて、手厚くないって先生が。実験機材とか整ってて手厚いのは地方の国立なんだって。現地での就職も有利みたいだし、そこも考えながらだね。九大の航空学科とかはどうかって言われた。まあ今の成績じゃ入れないから、そこを目指してがんばれって意味だと思うんだけど。」
 航空学科か、理系だなぁ。。え、あれ?
「自炊は大変だから、寮がある方が良いって親は言ってる。京都になら従姉妹がいるし、、、、」
「あれ、地方国立って?え?京都?九大って、もしかして九州!?」
「うん、若田光一さんとか。」

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