坂道では自転車を降りて

 そんな。理学部や工学部なんて、もともと男ばっかりなのに、九州なんかに行ったら、色が黒くて眉毛が濃くて目がデカい九州男児ばっかりで。横浜から来た多恵なんか、もう外国人みたいなもんで。。。多恵の細い身体が、西郷隆盛みたいな男達に良いようにされている妄想が頭の中を駆け巡り、心臓がバクバク言い始めた。ダメダメダメ。絶対だめ。それに九州と横浜ってどんだけ離れてるんだよ。日帰りどころか週末に帰るのも一苦労だろ。京都だって、往復したら何万円だろ?遠すぎる。耐えられるわけがない。

「神井くんは?」
「え、あ、俺?」
「お父さん、どうなったの?」
「俺は、できれば自宅から通える所のつもりだけど。親父の仕事がまだちゃんと決まってないから。でも兄ちゃんも就職するし、大学には行ける。受かれば。」
「そっか。だったら、私も自宅から通える所にしようかな。」

 しようかなって。その程度なら、是非そうして欲しいが、彼女自身の将来の事だ。俺のことなんか考えてる場合じゃないし、俺だって彼女に合わせて決めるつもりもない。俺達の関係がいかに儚いものなのか、思い知らされた気分だった。今のこの気持ちも、いずれは青春の1ページとしてアルバムに畳まれてしまうのだろうか。


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