坂道では自転車を降りて
「要らないって。」
「そう。」
「え、もう7時過ぎた?」
壁に掛けた時計を見る。確かに7時20分過ぎだ。
「ありがとうございます。もう帰ります。」
後ろで彼女が答えた。振り返ってみると微妙に息が荒い。大丈夫か?
「そうね。とりあえず一度電話したら?心配してるといけないから。」
「さっき一度帰ったから、大丈夫です。もう帰ります。神井くん、ごめん。今日はもう帰るよ。」
真っ赤な顔で、息を切らせて喋るから、ヒヤヒヤする。無理に喋らなくてもいいのに。
「邪魔してゴメンなさいね。」
「いえ、、あの。。。」
彼女は口ごもった。何か言おうとしているのを察し、母は黙って待っていた。
「その、、、スミマセン。あの、来週も来ていいですか?」
「。。。。」
母は俺を見た。意味が解らんのだろう。俺も彼女の質問の意図がイマイチ良く解らない。
「理士がいいなら、良いわよ。」
「ありがとうございます。」
彼女はホッとした顔をした。
その日は、そこまでになった。まだそれほど暗くないし、自転車だから平気だと言って、彼女は1人で帰ろうとしたけど、俺は自転車で彼女の後ろを追いかけて、家に入るのを見届けてから戻った。自転車で並んで走るだけで、言葉も交わせないのが、なんだか間抜けな感じだった。