坂道では自転車を降りて
 
「君の言う通りにするよ。本当はどっち。触って欲しいの?欲しくないの?」
「自分でもよくわからないの。多分、私は少し期待してたんだと思う。でも、君は今日は全然そんな気にならなかったって言った。君に従うって決めたんだから、今日はもう帰るよ。キスして。キスだけ。」
「わかった。」
そうだな。今日は俺に非がある。
唇に優しいキスを数回すると、彼女はにっこり笑って言った。

「君が私を大事にしてくれてるのも、とても嬉しいの。切ない気持ちもすごくあるけど、これもきっと素敵なことなんだと思う。だから、今日はこのまま帰る。いいよね?」
「本当にいいの?俺はしたくなっちゃったんだけど。」
「それは危ない。急いで帰ろっと。」
笑いながら言って、彼女はするりとドアを抜け、母に挨拶して出て行ってしまった。慌てて追いかける。
「送るから、待ってよ。」
「別にいいよ。自転車で来たから。」
笑いながら意地悪をいう。
「そこまででいいから、送らせてよ。」
「いいよ。ふふふっ。神井くんのバカ。」
「えっ。」

彼女は「バーカバーカ」と言いながら、クスクス笑っていた。
「なんだよ。」
俺が怒ってみせると、
「せっかくスカートで来たのに。」
「なっ。だって、さっきは。」

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