坂道では自転車を降りて
なんで今更、そんなこと言うんだよ。憮然とする俺の耳元に顔を寄せて囁く。
(パンツだって、可愛いの履いてきたのに。)
「がなっ あに???」
舌噛んだ。痛ってぇ。
「なーんちゃって。」
くすくす笑う彼女。なんだよ。それ。
「いてて、舌噛んだ。」
そうかい、そうかい。そうやって、俺をからかって、憂さ晴らししてるわけね。
(そんなこと言うなら、今度は、絶対するからな。覚悟しとけよ。)
って言いたいけど、舌が痛くて上手くしゃべれない。

「じゃあね。」
「んん。」
 彼女は俺の頭を撫でると、自転車に乗って帰って行った。なんか、勿体なかったかな。。でも、まあいいや。

 その後も俺達は一緒に帰ったり、図書室で会ったり、週末には古本屋や公園で待ち合わせたりして、週に何度かは2人の時間を過ごした。時には抱き締めたりキスしたり、ちょっとだけ触ったりして、俺も彼女も2人の距離に満足していたと思う。デートらしいデートはほとんどしなかったけど、古本屋の駐車場で缶ジュースを片手にお喋りすれば時間を忘れたし、公園のグランドでバトミントンを教えてあげると、とても喜んでくれた。街へ出て映画を見るよりもずっと楽しかった。

 このままこんな日を重ねて、いつか自然に結ばれる。彼女の言ってた事がなんとなく分かったような気がしていた。

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