坂道では自転車を降りて

 気付くとまだ織田が隣にいた。
「あぁ。もういい。話は分かった。ありがとう。」
「大野先輩、大丈夫じゃないって、どんな感じなんですか?」
「わからん。表向きは普通にしてる。多分。」
「1人、じゃなくて2人のときはどうなんですか?」
「泣いた。でも、それはよくあることなんだ。多恵は俺の前ではよく泣くんだ。あの日も、いやちがった。あの日はそのまま送ったんだ。何も聞かずに。俺といるのが辛そうで、具合も悪そうだったから。次の日だ。普通にニコニコして、はぐらかされた。俺、彼女がまた俺に隠し事をしてるのが気に入らなくて、問いつめたんだ。そしたら、一瞬でもう滝みたいに涙がでてきて、何もなかったって言って。そんなわけないだろって。結局それっきりなんだ。」
「それっきりって?」
「会ってないんだ。先週もずっと。」
「え?」

「どうして?え?ほっといたんですか?泣いてたんでしょ?」
「家までは送ったさ。結局、泣き止まないままだった。」
「そんな。じゃあ、先輩はあれからずっと、独りなんですか?」
「独りかどうかは知らない。俺とは会ってない。」
「俺、先輩に頼んだじゃないですか。お願いしますって、俺、言いましたよね?」
「そういえば言ったな。」
「そうですよ。先輩、俺に”もう多恵に関わるな”って言いましたよね?だったら先輩がちゃんと見ててくれるって事じゃないんですか?」
「だって、誰もこんな大事だとは思わないだろ。」
「そうかもしれませんけど、あの日の様子とかで、ただ事じゃないのは分かったでしょ?先輩、泣いたんでしょ?あの大野先輩が滝みたいに涙流したって、今言いましたよね。放っとくなんてありえない。っていうか、何やってんですか?」
「何が?」
「今ですよ。先輩のところへ行かなくていいんですか?」
「行くよ。行くけど。まだ授業中だろうし。それに、多恵は、俺に知られたくないって言ってたんだろ?」
「はぁ??」
織田はあきれたような声をだした。

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