坂道では自転車を降りて

「それにしても、大野とお前は、意外な組み合わせだな。。」
「意外ですか?」
「いや、良いんじゃないか。美女と野獣も。」
「野獣。。」
まあ、そう言われても仕方ないか。ケダモノよりはマシだ。
「大野にはもう少し温厚な男のほうが、良いような気もするがな。鈴木とか。」
「。。。。。。」
「すまん、気にしてたのか?」
「いえ。。」
「なんだ、お前も意外と繊細なんだな。」

 温厚か。彼女のテンポは本来もっとゆっくりなんだろうな。と感じることがある。だが、舞台監督という彼女の立場や、俺の存在がそれを許さなかった。部は既に引退したが、俺との関係は今でも毎日がジェットコースターだ。
 鈴木先輩や川村みたいに、一緒にいると落ち着くとか、困った時にさりげなく助けあうとか、ゆっくりと揺るぎない関係を積み上げるようなつきあい方は、俺にはできない。いつも奪うように求めて、突き放して泣かせて、慌ててまた抱き上げて。

「。。俺、どうしたら良いんでしょう?」
「人間関係や恋愛だって、学問と同じくらい大切だ。お前と付き合って、あの子は本当にいろんな事を学ぶだろうし、それはお前も同じだ。大事なのは自己管理能力だ。ただ、この時期、恋愛にのめりこんでしまって、自分を見失ってしまう子がたまにいるんだ。」
「はぁ。。」

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