坂道では自転車を降りて

 3日後、午後から図書館で待ち合わせた。最近昼寝を習慣にしてしまっていたので、ちょっと眠い。眠い目をこすりながら図書館に赴くと、彼女が困った顔で待っていた。
 図書館内の机は独り掛けの席がいくつか空いているだけで、2人で並んで座れるスペースがなかった。仕方ないので、2人で本の棚を巡ったり、あとはエントランスのソファで俺の数学を見てもらったり、雑談したりした。彼女は笑ってはいたけど、時々不安そうな顔でぼんやり俺を見ていて、俺が視線を向けると慌てて逸らした。俺が笑うと安心するみたいで、泣きそうな顔で笑った。切なくて、不安になる。

 おしゃべりはそこそこ楽しかったけど、学校の図書室でした打てば響くような会話はない。お互いに探るような距離感に少し疲れてきた。でも帰るには少し早い。
「この後、どうしようか?中に戻ってまた本を見る?散歩はまだ暑いかな。」
「今日はもう帰ろう。疲れた。」彼女は視線を下げて言った。
「俺の「もう・・」」声が重なる。彼女は黙って視線を外した。もう帰りたいのか。まあ、そうかもな。俺も疲れた。俺の部屋に誘うのはまた今度にしよう。

「そうだな。送るよ。次はいつがいいかな。」
約束があれば少しは不安にならずにいられると言っていた。
「。。。いい。また、会いたくなったら連絡して。」
「そう?約束しなくて大丈夫?」
「うん。大丈夫。帰ろう。」

 まだ暑い日差しが残る街を並んで歩き、彼女の家の前で別れた。今日は一度も、肩にさえ触れなかった。並んで立つとき、椅子に座る時、いつもより少し遠かった。俺が彼女に触れようと手を上げると、彼女は怯えたように肩を竦ませて逃げた。視線を外して逃げる彼女を前に、俺は何もできなかった。会えば必ず触れ合う訳じゃない。でも、これで良かったんだろうか。彼女は本当に俺に怯えていたのだろうか。

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