坂道では自転車を降りて

 彼女からはメールも絵はがきも来なくなった。たまに俺からメールすると元気そうな返事が帰って来た。補習は終わったが、空いている日は午前は学校で勉強する事にしたという。家でやるよりは捗るらしい。ちゃんと勉強しているだろうか。女の子らしい顔文字や意味不明な記号が増えて賑やかになったメールは、可愛らしいけど、心に残らない。少し彼女らしくない気がした。

 週に一度、顔を見て話すのは一応約束だったはずだ。1週間を空けないように気をつけて、誘い出してはみたが、彼女はあまり乗り気じゃなかった。探り合うような距離に切ない笑顔。よそよそしい態度。帰り道、なんとかつないだ手はずっと震えていて、可哀想になって離してしまった。あっという間に夏休みは半分終わった。
 このままで良いのだろうか。またうっかり次回の予定を決めずに別れてしまった。どうしようか考えて、やはり電話する事にした。電話は苦手だ。なんだか憂うつ。

「一日くらいどこかへ遊びに行かないか?」
「あー、うん。」
とくに嬉しそうでもない受け答えに気が滅入ってうんざりした。
「どこか行きたい所はある?」
「あるといえばあるけど、神井くんと行っても。。」
「え?」
「美術館とか興味ないよね?」
何だよ。その失礼な物言いは。
「もしかして、俺と会いたくない?」
「。。そういうわけじゃ。」
はっきりとは否定しないんだ。
「。。。。。」
「勉強しないと。受験生だし。」
「そうだな。やめとくか。美術館は美術部の友達とでも行ってくれ。」
「はい。」
友達とは出歩くわけね。

 もう誘う気はおこらなかった。そのまま、予定を決めずに電話を切った。なんだかなー。こんなんで付き合ってて意味があるんだろうか。会いたくない訳じゃない。会っておしゃべりして、触れ合って、すごく楽しかったはずなのに、今は会ってもちっとも楽しくなくなってしまった。彼女にしたって、俺が嫌いになった訳ではないと思う。でも、何かが怖くて怯えているんだろう。怖いのは、、俺か。やっぱりあれはマズかったかな。いやでも次の日も会いに来てくれた。

 受験だから別れるとか、距離をおくって話も聞かない訳じゃない。確かに、これじゃあお互い煩わしいだけだ。彼女の事はもうほおっておいて、受験が終わったら考えようか。そんなに長くほっといて大丈夫なのかな?受験・進学と忙しくしている間に、このまま自然消滅なんてことになってしまうんじゃないか?


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