坂道では自転車を降りて
それは、ガッタイしたいってこと?

 俺はそのまま彼女の家まで長い散歩をしようかと思っていたが、彼女が自転車で送って欲しいと言った。かかとの高いサンダルを履いて来たら足が痛くなってしまったらしい。なんだか目線に違和感があったのはヒールのせいだったのか。素足に履いた紐のサンダル。足の甲にできた靴擦れがピンク色で痛々しい。裸足のつま先に小さな指と可愛い爪が並んで、思わずしゃぶりつきたくなった。俺の肩に掴まる掌の感触。俺の家の前についた時には、俺のほうが、これ以上我慢できそうになくなってしまっていた。このまま抱き締めもせず帰したら、夜眠れない。でも、母さんは父さんのところへ行っていて今日は帰ってこない。

「と、とりあえず、絆創膏貼ってあげるから。入って。」
 鞄から鍵を取り出しドアを開けると、彼女を玄関の中に招き入れた。家の空気は淀んでいたけど、そんなこと気にする間もなく、すぐに後ろから抱き寄せた。
「母さん帰ってこないんだ。でも、俺の部屋に来て欲しい。ダメ。」
「絆創膏は?」
「もちろん貼ってあげるけど。。。そうじゃなくて。」
「??」
「少しで良いんだ。俺の部屋で、イチャイチャしたい。」
 俺が言うと彼女はみるみる真っ赤になって、困りきった顔で笑った。でもちょっと嬉しそうにも見える。そして、延々と悩み始めた。

「ダメ?」
「少しってどのくらい?」
「・・・少し。」
「家に、誰もいないんだよね?」
「ちょっとだけだから。本当に。ね。」
 不安そうな顔。この前のことが頭にあるんだろう。信用して欲しいという方が無理な話だ。俺だったら信じない。

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