坂道では自転車を降りて

 そう今だ。俺の気持ちは走り出してしまった。部屋に呼ぶだけで3ヶ月も待たされた。あれからさらに1年近く待った。もう待てないんだ。こんな気持ちのまま美術館へ行ったって、上の空で歩くだけだ。絵画観賞なんてできるわけがない。俺は彼女の手を取って歩き出した。

「行くって、どこに?」
どこって、君だって分かってるだろ。お願いだから黙ってついてきてよ。
「でも私、何も準備してなくて。」
準備なんて何も要らない。君さえいれば。
「神井くん。」

 また強引すぎるって言われるだろうか。だけど、嫌なら手を振りほどいて逃げれば良い。俺はそんなに強く握ってる訳じゃない。俺の手を握っているのは彼女だ。

 俺はさっき来た道を足早に戻る。彼女はそれ以上何も言わずについてきた。目的の建物の前で彼女を振り返ると、彼女は建物と俺を見比べながら目を泳がせている。

「嫌なら逃げなよ。」
そろそろ君だって腹を決めるべきだ。いや、君の気持ちはもう決まっていた筈だろ。君の身体に初めてを刻むのは俺だ。
「嫌じゃないよ!だけど。。」
「だったら、行くよ。」
俺はバンジーを飛ぶみたいな気持ちで、彼女を抱えて建物に飛び込んだ。





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