甘い恋の賞味期限
 千世が来るのを確認して、史朗がカードキーを取り出す。

(専務の私服って……だらしないわね)

 エレベーターに乗り込んでも、ふたりは無言。
 それもそのはず。ふたりには大した接点もないのだ。同じ会社で働いているとは言え、顔を合わせることなどない。
 千世もフレンドリーなタイプではないし、この場で気軽に話しかけたりもしない。
 しかしそれよりも、史朗の服装が思いの外だらしないことに驚いている。イメージ的に、もっとオシャレな服を着ていそうだったから。

「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 エレベーターを降り、向かう先は専務宅。
 ーー大丈夫。
 この日のために、昨日から色々と考えたのだ。ケーキだって作ったし、日頃は気にしない服装も気にかけた。専務様のお宅にお邪魔するのだ。失礼があってはいけない。

「千紘。千世さんが来たぞ」

 史朗の言葉と共に、騒がしい足音が近づいてきた。

「ち――せ――!」

 元気な声と共に登場した千紘は、そのままの勢いで千世へと飛び付いた。

「倒れ――!」

 そう思ったが、史朗が支えてくれた。
 た、助かった……。

「お、お手数おかけします……」

「いや、構わない。千紘、危ないだろう。千世さんに謝りなさい」

 千世に抱きついたまま、千紘はべーっと舌を出すばかり。謝る気はなさそうだ。

「千世、それなんだ?」

「え? あぁ、ケーキだけど……」

 千世の手荷物が気になった千紘。
 しかも、その中にはケーキを入れる箱らしきものもある。

< 71 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop