甘い恋の賞味期限
「ケーキ! オレのだ!」

「確かに君に作ってきたけど……今から食べるの?」

「食べる!」

 手を伸ばそうとする千紘からケーキを守るため、頭より高い位置に持ち上げる。

「千紘。まだ昼飯も食べてないんだ。ケーキは後だ」

「えー!」

 不満そうな息子を抱え上げ、史朗はさっさとリビングへ移動する。
 千世は迷いつつも、仕方ないので靴を脱いで上がることにした。
 数日前に来たが、あの時は急いでいて室内を見る余裕なんてなかったから、はじめて来たお宅とほとんど同じようなもの。

(この絵……何?)

 廊下に絵が飾ってある。綺麗な絵だが、価値はまったく分からない。
 ただ千世の中で、絵を飾るのは金持ちというイメージがある。

「千世さん?」

「あ、すみません」

 来ない千世を心配したのか、史朗がリビングから顔を出す。

「うわ……広っ」

 リビングに入ると、その広さに圧倒される。実家の居間よりも広くて、落ち着かない。壁にかかってるテレビも大きいし、ソファーセットもよく分からないけれど高そう。

(あ、絵本がある)

 オシャレなガラステーブルの上、雑誌や新聞にまぎれて置かれているのは千紘の絵本。
 こういうのを見ると、安心してしまう。根が庶民なのだ。

「ケーキ、冷蔵庫に入れましょうか?」

「あ、お願いします」

 ケーキの入った箱を渡し、千世はどうしようか悩む。
 どこに座っても、絶対に落ち着かない。

「千世、家の中見せてやろうか?」

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