甘い恋の賞味期限
 千紘が机に置かれたポシェットから、何かを取り出して持って来る。

「何? おもちゃの、指輪?」

 千紘が自信満々に差し出したのは、確かにおもちゃの指輪だ。

「この間、ばあちゃんとスーパーに行った時、ガチャガチャで買った」

「ふ〜ん。で、これを私にくれると」

「おう! これな、親父にもやったんだ」

「へぇ……」

 あの専務に、おもちゃの指輪。……似合わない。一体、どんな顔をして受け取ったのだろうか?

「これで、親父と千世はけっこんして、オレの母ちゃんになれるよな?」

「…………そういう意味か」

 子どもらしい発想だが、指輪を持っているだけでは結婚したことにはならない。
 だが、千紘に婚姻届とか説明しても分かんねぇ、と言われるのが目に見えている。別の視点からの説得が必要だ。

「千紘」

「なんだ?」

「指輪っていうのはね、男性が結婚したい女性に贈るものなの。この場合、私に指輪を渡しているのは君だから、私は君と結婚することになる」

「え、そうなのか?」

「そうなのよ。だから、千紘のお父さんとは結婚しない。君のお母さんにもならない」

 千紘から受け取った指輪を握り締め、千世は嘘のような、けれども本当にも聞こえるようなことを言ってみせた。

「じゃあ、親父に渡してもらう。千世、それ返せ!」

「もらった時点で私の物よ」

 我ながら、子どもじみた言い訳だ。
 だが、指輪まで取り出すとはどうしたことだろう。
 そうまでして、千紘は自分を母親にしたいのか?

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