甘い恋の賞味期限
 クイクイッと服の裾を引っ張られる、千世は視線を下げる。

「君の部屋だけでいいよ」

 そんなに見て回りたいほど、興味があるわけでもないし。
 あぁ、でも、間違って史朗の部屋に入らないためにも、そっちは知っておいた方がいいのだろうか?

「じゃあ、オレの部屋っ」

「そんな引っ張らなくても……」

 千世の手を掴み、千紘は自分の部屋へと移動する。
 それを見送る史朗は、やはり疑問が消えないでいた。
 何故千紘は、あんなにも彼女に懐いているのだろう?

(見合い相手にも、あのくらい懐いてくれるといいんだが……)

 先日の見合い相手、猪寺 和音。母親が、千紘を連れて彼女ともう一度会えと言うが、千紘は父親と一緒で、まったく乗り気じゃない。

「……昼飯、どうするかな」

 今日は日曜日で、自分も仕事が休み。数日泊まっていた母親も、今日は実家に帰っている。作ってくれる人がいないのであれば、選択肢は限られている。出前か、食べに行くか。
 ただこの家に、出前のメニューはない。

「食べに行くか……」

 千紘がもう少し落ち着いたら、外へ食べに行こう。
 そう決めて、史朗は自室に引き上げることにした。




 子ども部屋だから、散らかっているものだと思っていたが、千紘の部屋は実に片付いていた。壁に落書きもないし、床におもちゃも散乱していない。
 ただ、思わずにはいられなかった。

「なんか、金持ちの子の部屋、って感じがするわ」

 ベッドは子どもが使うにしては大きいし、開けっ放しのクローゼットに仕舞われた服はブランド物。置いてある時計なんかも、細工が凝っているし高そう。

「オレ、千世にやるものがあったんだ」

「何かくれるの?」

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