甘い恋の賞味期限
 千世がため息を漏らすと、目の前の歯科医が微笑む。

「嫌々来た、って感じですね」

「分かります?」

 炭酸水を飲み、千世は腕時計を見る。今は19時過ぎ。
 今帰ることができれば、とても良いのだが。

「あの……飲むペースが早いですけど、大丈夫ですか?」

 歯科医は、ビールを飲むペースが早い。千世が炭酸水を半分飲むまでに、彼は2杯のビールを飲んだ。
 そして今、彼は3杯目のビールに口をつけている。

「緊張していて……」

「そうですか。でも、飲み過ぎは良くないですし……水、頼みますね」

「余計なことはしなくていいっ」

 いきなり声を荒げる歯科医に、千世はビクッと肩をはねさせた。

「す、すみません。……お酒が入ると、ちょっと口調が乱暴になってしまって」

「……そう、ですか」

 なんだろう。
 この人、ちょっと面倒臭そう。

(……厄介な人を紹介してくれたわね)

 出会って10分程度だから、彼についてはほとんど知らない。
 けど、直感で分かった。
 この歯科医は、面倒な人だと。




*****

 帝国ホテルで開かれているパーティーに、史朗は息子の千紘と、そして猪寺 和音を同伴者として出席した。千紘は嫌がっていたが、カスミ出版の社長とは家族ぐるみの付き合いだ。お正月には毎年お年玉をくれるし、千紘の誕生日も覚えていてくれている。
 だから、出席しないわけにはいかない。

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