絶対主従関係。-俺様なアイツ-
 声をかけた瞬間、気づいた。

その向こうにはもう一人いて、それはあたしを朝からドキドキさせる。

「こ、皇さま……!?」

「ふぁ……あ、おはよう、愛子ちゃん」

「愛子さん、慌ててどうしたの?」


 主任と話していたのは、眠そうな皇さまだった。

「おっ、おはようございます!
皇さままであくびされて……。昨夜はよほど眠れない夜だったのですね」

「……え?ああ、そうだね」


 苦笑いを交えながら、皇さまは主任に「じゃあ、よろしく」と手を挙げて自室に戻ってしまった。

そんな笑顔だけで、あたしは甘いケーキでも食べた気分。


もう少し、あの素敵な微笑を堪能したかったのだけど。


「それでどうかされたの?愛子さん」


 ふう、とため息混じりに主任に覗き込まれてしまった。

あたしは緩みっぱなしの頬を引き締めて、明け方のことを思い出していた。


「大したことじゃないんですが……。昨夜、道に迷ってしまったんです……」

 口にした直後、ぴくりと主任の眉が反応した。

まだ屋敷内を覚え切れていないことに、主任はあまりよい顔をしない。


慌てて流すように口を動かす。

「それでですね!あたし、素敵なところを見つけたんです!」

「……はい?」

 あたしの勢いに押されたのか、主任もきょとんと目を丸くする。

逸る気持ちをぐっと抑え、あたしはつばを飲み込んだ。


「夜なのに白く光ってて、小さな庭園みたいでした。
でもあたし、そんなところ教えてもらっていないなぁと思いまして……」


 あくまでも、下手に回らなくては。

そうでなければ、知りたいことも教えてもらえない。


というより、ここの屋敷では藤堂家の住人だけでなく、同僚たちへの思いやりや気配りも徹底されている。


紅葉さんだけではなく、他の先輩たちからも丁寧に仕事を教えてもらえるし、あたしも身が引き締まる思いだ。


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