絶対主従関係。-俺様なアイツ-
 ドキドキ、と答えを待つあたしに、こわばっていた主任の顔は次第に力が抜けていった。


「……恐らく、そこは『箱庭』です」


 ────ハコニワ?

 あたしの疑問を紐解くように、なにか観念したように主任は話してくれた。


 主任によると、あの小さな庭園は『箱庭』と称され、その名の通り、室内にある。

自動開閉できる天窓から月明かりを取り入れ、夜でも明るいのだと説明された。


構造についてはよくわからなかったけど、とにかくあそこの一角だけは別なのだそうだ。


「どうしてそんなものを……?」


 これは野暮な質問だったと、口にしてから気付く。

 高貴な人の趣味なんて、凡人なあたしには理解できるわけがない。

確かに、『箱庭』は素敵な場所でもあったし。


 そう思っていた。


「それは……皇さまがお造りになられたから」


 いつだって冷静な主任が、今までに見たこのないほど、困ったように優しく笑った。




 その日もやっぱり静かな食卓の朝が終わり、あたしは一足先に仕事を終わらせ登校する。

相変わらずアイツは眠そうにしていたのだけど、あんな夜更かししていれば当然だ。



 ふと、思う。

じゃあ、いつもあんな時間まで……?


走っていた足が、にわかに枷を付けられたように重く感じた。


 なぜ皇さまは、『箱庭』を作ったのだろう?

 なぜ主任は、言葉を濁したんだろう?



 どうしてアイツは……



「……“あいつ”って、誰よ…」


 ───あの場所にいたんだろう?



 その答えは、心中を悟るように、すぐに知ることになってしまった。


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